診療コラム

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胃透視で異常が指摘されたら

胃透視で異常が指摘されたら

はじめに

胃透視検査は、胃の健康を守るために広く行われている検査の一つです。バリウムという造影剤を飲み、X線を用いて食道、胃、十二指腸の状態を観察することで、胃がん、胃潰瘍、ポリープなどの異常を検出します。特に日本では、胃がんの罹患率が比較的高いため、胃がん検診の一環としてこの検査が積極的に採用されており、厚生労働省が推奨するがん検診では40歳以上で年1回実施可能と提示されています。

しかし、検査で異常が指摘された場合、どのような可能性があるか、次にどのような対応をすべきかなどご不安なことも多いと思われます。このコラムでは、胃透視検査で異常が見つかった場合の対応について解説します。異常が指摘された際の適切な対応や次のステップ、さらには検査の限界や患者が知っておくべき情報を説明し、安心して次の行動を取れるようサポートします。

胃透視検査とは

胃透視検査(上部消化管X線検査)は、患者がバリウムという白い液体を飲み、X線で食道、胃、十二指腸の内部を撮影する検査です。バリウムはX線を通さない性質を持ち、胃の粘膜に付着することで、臓器の形状や表面の凹凸を明確に映し出します。また、胃を膨らませるために発泡剤を使用し、粘膜のしわを伸ばして観察しやすくします。この検査は、以下のような異常を検出できます:

  • 胃潰瘍や十二指腸潰瘍
  • 胃がんや食道がん
  • ポリープや粘膜下腫瘍
  • 食道や胃の形態異常(例:食道裂孔ヘルニア、狭窄)

検査前には、胃の中に食べ物が残らないよう、通常、前日の夜から絶食が必要です。検査中は、患者がさまざまな角度で体を動かし、バリウムが胃の粘膜全体に行き渡るようにします。検査時間は通常15~30分程度で、放射線技師や医師がリアルタイムで画像を確認します。検査後は、バリウムを体外に排出するために十分な水分摂取が推奨されます。バリウムが便として排出されるまで数日かかることがあり、便が白くなることがありますが、これは正常な現象ですのでご不安になる必要はありません。また、検査に伴う放射線被曝はごくわずかであり、通常の健康リスクは低いとされています。

胃透視検査で検出される異常

胃透視検査で異常が指摘された場合、以下のような所見が報告されることがあります。これらの所見は、X線画像上でバリウムの分布や胃の形状の変化として現れます。以下に、一般的な異常とその可能性のある病気を表にまとめます。

異常所見

可能性のある病気

説明

ニッシェ(陥凹)

胃潰瘍、胃がん

胃壁のくぼみにバリウムがたまることで見つかります。深い潰瘍やがんの可能性があります。

隆起性病変

ポリープ、粘膜下腫瘍、胃がん

胃の内側に突出した部分が観察されます。

辺縁不正

慢性胃炎、胃がん

胃の輪郭がギザギザまたは不均一に見えます。

陰影欠損

大きなポリープ、胃がん、粘膜下腫瘍

バリウムが付着しない部分が暗く映ります。

レリーフ不整

胃潰瘍、胃炎、胃がん

胃のひだ(レリーフ)が不均一、集中、または肥大します。

狭窄

潰瘍後の瘢痕、がん

食物の通り道が狭くなる状態です。

バリウム斑

胃炎、胃潰瘍、胃がん

粘膜の小さな陥凹にバリウムがたまることで見つかります。

これらの所見は、凹凸での変化しか見れない胃透視検査の限界により、確定診断には至りません。たとえば、平坦な病変や粘膜の色の変化は検出が難しく、早期の胃がんは見逃される可能性があります。また、食道の小さな病変はバリウムが素早く流れるため、発見が難しい場合があります。そのため、異常が指摘された場合、さらなる精密検査が不可欠です。

異常が見つかった場合の対応

胃透視検査で異常が指摘された場合、通常は上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)が推奨されます。内視鏡検査は、細い管にカメラを付けた機器を口または鼻から挿入し、胃の内部を直接観察する検査です。この検査の利点は以下の通りです:

  • 高精度な診断:平坦な病変や色の変化を検出でき、早期胃がんの診断に優れています。胃透視では見逃されがちな微細な変化も捉えることができます。
  • 生検の可能性:がんが疑われる場合、組織を採取して顕微鏡で検査(病理診断)し、確定診断が可能です。これにより、がんの種類や進行度を正確に評価できます。

内視鏡検査は、通常、局所麻酔や鎮静剤を使用して行われ、患者の不快感を軽減します。検査時間は10~20分程度で、事前に絶食が必要です。2016年の厚生労働省のガイドラインでは、胃がん検診において内視鏡検査の採用が増加しており、特に異常が疑われる場合には必須の検査とされています。また、最近では鼻から挿入する経鼻内視鏡も普及しており、口からの挿入に比べて嘔吐反射が少なく、患者の負担が軽減されています。

内視鏡検査の結果に基づき、医師は適切な対応を行います:

  • 胃潰瘍、胃炎:胃酸を抑える薬(プロトンポンプ阻害薬やH2ブロッカー)や、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染が原因の場合はピロリ菌の除菌治療が行われます。ピロリ菌感染は胃がんのリスクを高めるため、検査と治療が推奨されます。除菌治療は、抗生物質と胃酸抑制薬の組み合わせで、通常1週間行われます。
  • ポリープ:ポリープとは隆起してる病変の総称で治療介入を必要としない良性のポリープから、切除を必要とする悪性のものがあります。内視鏡検査と組織検査で診断可能で、大きなポリープや悪性が疑われる場合は、追加の検査や手術が必要です。ポリープの種類(腺腫、過形成性ポリープなど)によって、治療方針が異なります。
  • 胃がん:がんが確認された場合、病期(ステージ)を評価し、手術、化学療法、放射線療法などの治療計画が立てられます。早期発見により、治療の成功率が高まります。たとえば、ステージIの胃がんは5年生存率が90%以上とされています。
  • その他の異常:食道裂孔ヘルニアや狭窄など、構造的な異常が見つかった場合、症状に応じて経過観察や外科的治療が検討されます。たとえば、食道裂孔ヘルニアは軽度の場合は生活習慣の改善で管理可能ですが、重度の場合は手術が必要な場合があります。

知っておくべきポイント

異常が指摘された場合、患者が冷静に対応するために、以下のポイントを理解しておくことが重要です:

  • 異常が必ずしも重篤な病気とは限らない:胃透視で指摘された異常の多くは、胃炎や小さなポリープなど、治療可能な病気です。過度な心配は避け、医師の説明をよく聞きましょう。
  • 早期発見の重要性:胃がんや食道がんは、早期に発見されれば治療の成功率が大きく向上します。消化器癌は、早期発見により外科的な治療は回避でき、内視鏡治療で完治する可能性があります。
  • ピロリ菌の検査:胃透視で異常が見つかった場合、ピロリ菌検査(血液検査、尿素呼気試験など)が推奨されることがあります。ピロリ菌は胃がんの主要なリスク因子であり、除菌によりリスクを低減できます。
  • 生活習慣の改善:異常が見つかった場合、食事や生活習慣の見直しが推奨されることがあります。たとえば、刺激物の摂取を控え、禁煙や節酒を心がけることで、胃の健康を保つことができます。

胃透視検査の限界

胃透視検査は、胃の形状や粘膜の凹凸を観察するのに有効ですが、以下のような限界があります:

  • 平坦な病変や色の変化は検出が難しい。
  • 食道の小さな病変は、バリウムが素早く流れるため見逃される可能性がある。
  • 確定診断には組織検査が必要であり、胃透視だけでは診断が完結しない。
  • 放射線被曝がわずかにあるため、妊娠中の女性には推奨されない場合があります。

日本消化器内視鏡学会によると、2010年のデータでは、胃透視検査を受けた約243万人のうち、8.5%(約20万人)が精密検査を必要とし、そのうち77.4%が内視鏡検査を受け、0.11%(約2,683人)が胃がんと診断されました。このデータから、胃透視はスクリーニングに有用ですが、異常が見つかった場合は内視鏡検査が不可欠であることがわかります。また、最近の研究では、胃透視と内視鏡を組み合わせた検診が、胃がんの早期発見率を向上させることが示されています。

まとめ

胃透視検査で異常が指摘された場合、慌てず、医師の指示に従って次のステップを踏むことが重要です。ほとんどの場合、上部消化管内視鏡検査が推奨され、正確な診断と適切な治療計画につながります。早期発見と適切な対応により、胃の病気は効果的に管理可能です。異常が見つかった場合は、速やかに医療機関を受診し、専門医の指導を受けることをお勧めします。また、定期的な検診や生活習慣の改善により、胃の健康を維持することが大切です。ピロリ菌の検査や除菌治療も、胃がん予防に有効な手段として積極的に検討しましょう。