2026.07.29
【専門医が解説】若い人の大腸がんが増えているのはなぜ? ~若年性大腸がんの現状と、最新研究から見えてきたこと~

「大腸がんは高齢になってから心配する病気。」
そのようなイメージをお持ちの方は多いのではないでしょうか。
確かに、大腸がんは加齢とともに発症率が高くなる病気です。しかし近年、この常識を覆すような変化が世界中で報告されています。それは50歳未満で発症する「若年性大腸がん(Early-Onset Colorectal Cancer:EOCRC)」が増加しているという事実です¹。
一方で、50歳以上では便潜血検査や大腸内視鏡検査の普及、ポリープ切除による予防効果などにより、大腸がんの発症率や死亡率は改善しています。しかし若い世代では、この恩恵を十分に受けられておらず、欧米を中心に発症率が上昇しています。日本でも同様の傾向が指摘されており、若年性大腸がんは消化器内科医や内視鏡専門医にとって重要なテーマとなっています。
では、なぜ若い人に大腸がんが増えているのでしょうか。
実は、その原因はまだ完全には解明されていません。しかし現在では、食生活や肥満、運動不足、腸内細菌、環境要因など、さまざまな因子が複雑に関係していると考えられています。そして近年、それらをつなぐ新しい視点として「生物学的老化(Biological Aging)」という概念が注目され始めています。
今回は、若年性大腸がんがなぜ増えているのかについて、最新の研究をもとに分かりやすく解説します。
目次
若年性大腸がん(EOCRC)とは?
若年性大腸がんとは、一般的に50歳未満で発症する大腸がんを指します。
近年、アメリカやヨーロッパでは、20代から40代の大腸がん患者が増えていることが相次いで報告されました。米国の大規模疫学研究では、1990年代以降に生まれた世代は、1950年代に生まれた世代と比べて若年性大腸がんの発症リスクが高いことが示されています²。
このような変化は「Birth Cohort Effect(出生コホート効果)」と呼ばれています。同じ年齢でも、生まれた年代によって病気のリスクが異なるという考え方です。
つまり、現在30歳の方は、30年前の30歳とは異なる環境で育ち、異なるリスクにさらされている可能性があるということです。
日本でも他人事ではありません
日本では欧米ほど急激ではありませんが、若年性大腸がんへの関心は年々高まっています。食生活の欧米化、肥満人口の増加、運動不足など、日本でも生活環境はこの数十年で大きく変化しました。また、大腸がんは早期には症状が乏しいことも多く、若い方では「まだ若いから大丈夫」「痔だろう」と考えて受診が遅れるケースも少なくありません。その結果、進行した状態で見つかることが、高齢者より多いことも課題となっています。だからこそ、「若いから大丈夫」という先入観を持たず、症状がある場合には早めに医療機関へ相談することが大切です。
原因は一つではありません
患者さんから「若いのに、なぜ大腸がんになるのですか?」と質問されることがあります。現時点での答えは、「一つの原因では説明できません」です。現在、有力と考えられている要因には、
- 食生活の変化
- 肥満
- 運動不足
- 超加工食品(Ultra-processed foods)の増加
- 腸内細菌叢(マイクロバイオーム)の変化
- 慢性的な炎症
- 遺伝的素因
などがあります。
これらは互いに独立しているわけではなく、複雑に影響し合いながら、大腸がんの発症リスクを高めていると考えられています。例えば、超加工食品中心の食生活は肥満を招きやすく、腸内細菌のバランスにも影響を及ぼします。その結果、腸に慢性的な炎症が生じ、発がんにつながりやすい環境が形成される可能性があります。
つまり、「食事」「肥満」「腸内細菌」「炎症」は、それぞれが別々に働くのではなく、一つの流れの中で大腸がんのリスクに関わっていると考えられているのです。
「生活習慣病」としてだけでは説明できない
もちろん、生活習慣は重要です。しかし、適切な食生活を送り、運動もしている若い方が大腸がんを発症することもあります。一方で、不健康な生活を送っていても発症しない方もいます。このことから研究者たちは、「生活習慣だけでは説明できない仕組み」が存在するのではないかと考えるようになりました。そして近年、世界中で注目されているのが、細胞そのものの老化速度という考え方です。
実年齢は30歳でも、細胞レベルでは40歳、あるいは50歳相当まで老化が進んでいる可能性がある――。
この「生物学的老化」という概念が、若年性大腸がんを理解する新たな鍵になるのではないかと期待されています。
細胞にも「年齢」がある
私たちは通常、年齢を「30歳」「40歳」という実年齢で考えます。しかし、細胞には実年齢とは別に「老化の進み具合」があります。これを生物学的年齢と呼びます。
例えば、同じ30歳でも、
- 規則正しい生活を送り運動習慣がある人
- 肥満や喫煙、睡眠不足、慢性的なストレスが続いている人
では、細胞が受けているダメージは異なる可能性があります。
つまり、「30歳」という同じ実年齢でも、細胞レベルでは35歳、あるいは45歳相当の老化が進んでいることがあり得るのです。この「細胞の年齢」を調べる方法として、近年注目されているのがDNAメチル化時計(DNA methylation clock)です。
DNAメチル化とは、DNAに付加される化学的な修飾のことで、加齢とともに特徴的な変化を示します。この変化を解析することで、生物学的年齢を推定できるようになりました。
生物学的老化と若年性大腸がんの関係
近年、この分野の研究は急速に進歩しています。2025年にはEBioMedicineに、不健康な生活習慣、生物学的老化、大腸がんの関係を解析した大規模研究が報告されました。30万人以上を対象とした解析では、
- 肥満
- 喫煙
- 運動不足
- 不健康な食生活
などの生活習慣は、生物学的老化を促進し、その一部を介して大腸がんリスクを高める可能性が示されました¹。
つまり、
「生活習慣 → 細胞の老化 → 大腸がんリスク上昇」
という新しいメカニズムが見えてきたのです。
さらに2026年にはNature Medicineに、若年性がん全体を対象とした大規模研究が発表されました。この研究では、出生年代が新しくなるにつれて、生物学的老化が早い人ほど、若年でがんを発症するリスクが高くなる可能性が示されました²。これは大腸がんだけでなく、乳がんや膵がんなど、複数のがんに共通する現象として注目されています。ただし、この研究は「生物学的老化が若年性大腸がんの原因である」と証明したものではありません。現時点では、「有力な仮説」であり、今後さらなる研究が必要です。
腸内細菌も重要な役割を担っている
最近では、生物学的老化と腸内細菌との関連も研究されています。腸内には約100兆個もの細菌が存在し、免疫や代謝を支えています。一方で、腸内細菌のバランスが崩れると慢性的な炎症が起こりやすくなり、大腸がんとの関連が指摘されています。
特に、
- Fusobacterium nucleatum
- 毒素産生型 Bacteroides fragilis
- 一部の Escherichia coli
などは、若年性大腸がんとの関連が数多く報告されています。
これらの細菌は、炎症やDNA損傷を介して発がんを促進する可能性が研究されています。しかし、「特定の細菌がいるから必ず大腸がんになる」というわけではありません。現在は、腸内細菌・炎症・DNAメチル化・生物学的老化が相互に影響し合いながら発がんに関わるというモデルが提唱されています。
今日からできること
生物学的老化は、まだ一般診療で測定して大腸がんリスクを判定する段階にはありません。しかし、研究から見えてきたことは明確です。健康的な生活習慣は、細胞へのダメージを減らし、生物学的老化を遅らせる可能性があります。
具体的には、
- 野菜や果物、全粒穀物など食物繊維を十分に摂る
- 加工肉や超加工食品を控えめにする
- 適度な運動を続ける
- 適正体重を維持する
- 禁煙する
- 十分な睡眠を確保する
といった基本的な生活習慣が、将来の大腸の健康にもつながると考えられています。
|
対策分野 |
具体的なアクション |
期待される効果 |
|---|---|---|
|
食事の改善 |
超加工食品を減らし、野菜・果物・全粒穀物(食物繊維)を増やす。 |
腸内環境の改善、抗酸化作用によるDNA修復。 |
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運動の習慣化 |
週に150分程度のウォーキングや軽い筋トレを行う。 |
内臓脂肪の減少、慢性炎症の抑制。 |
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質の高い睡眠 |
就寝1時間前はスマホを置き、7時間以上の睡眠を確保する。 |
細胞の修復(オートファジー)の活性化。 |
|
リスク意識 |
便通異常(便秘・下痢の継続)や血便があれば、迷わず消化器内科へ。 |
がん・ポリープの早期発見。 |
特に重要なのは「食物繊維」です。食物繊維が腸内細菌によって分解されると「短鎖脂肪酸」という物質が作られます。この短鎖脂肪酸には、大腸粘膜の炎症を抑え、細胞の老化を防ぐ強力な作用があります。
「若いから大丈夫」と思わないでください
若年性大腸がんで問題となるのは、「若いから大丈夫」と考え、受診が遅れてしまうことです。血便があっても「痔だろう」と自己判断したり、便秘や下痢が続いても忙しさを理由に受診を先延ばしにしたりするケースは少なくありません。大腸がんは、早期で発見できれば高い確率で治癒が期待できる病気です。さらに、大腸内視鏡検査では、がんになる前のポリープを切除することで、将来の大腸がんを予防できるという大きな特徴があります。
過度な不安は不要、しかし「自分の体への過信」は禁物
本記事の最重要ポイント
- 20代〜40代の大腸がん急増の背景には、現代特有のライフスタイルによる「生物学的老化(細胞の老化)の加速」がある。
- 実年齢が若くても、体の中が「高齢化」しているリスクを認識することが大切。
- 食事、運動、睡眠の改善によって、細胞の老化スピードはコントロールできる。
医療の世界は現在、この知見をもとに新しいパラダイムへとシフトしています。将来的には、簡易的な血液検査や遺伝子検査で個人の「生物学的年齢」を算出し、「あなたの実年齢は32歳ですが、腸の老化が進んでいるので大腸カメラを受けましょう」といった、オーダーメイド型の検診が普及する時代がすぐそこまで来ています。
しかし、その技術が一般的になるのを待つ必要はありません。
もしあなたが今、20代〜40代で、「最近、お腹の調子がずっと悪い」「便に血が混じっているような気がするが、若いから大丈夫だろう」と思っているなら、その過信は禁物です。あなたの細胞は、あなたが思っているよりも少し早く年齢を重ねているかもしれません。
少しでも気になる症状があれば、恥ずかしがらず、また「大げさかもしれない」と躊躇せず、消化器内科を受診してください。大腸がんは、早期に発見できれば切除・完治が十分に可能ながんです。
現代社会を生き抜くために、まずは今日のご飯を少し見直すこと、そして自分の体の声に耳を傾けることから始めてみませんか?
広島八丁堀内科・胃腸内視鏡クリニックでの大腸カメラをゼロにする取り組み
当院では広島で大腸がんに苦しむ人をゼロにすることを目標にしております。そのためには、どんな症状でも遠慮せず、相談していただく環境を整えております。また、大腸カメラを最初から「受けるために」当院を受診された人だけでなく、「大腸カメラを受ける予定のなかった」人にも、過去に検査歴がないのであれば積極的に受けていただける環境を整えるようにしています。一人でも多くの人に大腸カメラを。今の時代、年齢はもはや関係ありません。大腸カメラの第一歩が今後の人生を左右する第一歩になります。
苦痛の少ない大腸カメラ検査
鎮静剤(麻酔)を使用し、ウトウトと眠っている間に終わる大腸カメラで、大腸の粘膜の状態を正確に診断します。
大腸ポリープはその場で切除
大腸ポリープが確認された場合、その場で切除します(サイズにより適応がない場合もあり)。改めての検査や、入院での検査も不要になります。
土日の検査にも対応
お忙しい方でも受診しやすいよう、週末の検査枠も設けております。
専用のラウンジフロアも完備
院内に専用の下剤内服フロアを完備しております。自宅で飲んだ後に来院する間の心配は不要です。
アクセス抜群の広島中心地で検査が受けることができます。
参考文献
- Siegel RL, Miller KD, Wagle NS, Jemal A. Cancer Statistics, 2023. CA Cancer J Clin. 2023;73(1):17-48. doi:10.3322/caac.21763.
- Siegel RL, Fedewa SA, Anderson WF, et al. Colorectal cancer incidence patterns in the United States, 1974–2013. J Natl Cancer Inst. 2017;109(8):djw322. doi:10.1093/jnci/djw322.
- Sun J, et al. Accelerated biological aging and its hallmarks in DNA methylation drive the association between unhealthy lifestyles and the onset of colorectal cancer. EBioMedicine. 2025;122:106005. doi:10.1016/j.ebiom.2025.106005
- Tian R, Zong X, Ren D, et al. Biological aging and generational shifts in early-onset cancer risk. Nature Medicine. 2026. doi:10.1038/s41591-026-04448-w
- Tao Y, et al. DNA Methylation Signatures and the Contribution of Age-Associated Methylomic Drift to Carcinogenesis in Early-Onset Colorectal Cancer. Cancers. 2021;13:2589. doi:10.3390/cancers13112589
- Zheng Y, et al. Dysfunctional epigenetic aging of the normal colon and colorectal cancer risk. Clinical Epigenetics. 2020;12:5. doi:10.1186/s13148-019-0801-3


