top of page

吐き気から疑う病気について

更新日:2024年11月20日

吐き気は最も一般的な症状の一つで、救急外来を受診する患者さんの2.3%が吐き気・嘔吐を主訴にしていると言われています。吐き気は胃や腸などの消化管の症状ですが、その背景には消化管の異常のみならず、脳などの中枢神経系、体の平衡感覚を司る内耳の異常、そして心臓系の異常などさまざまな原因が吐き気の原因になります。


また病気ではないですが、女性の場合は妊娠の可能性も常に考慮しなければいけません。そしてそれらの原因の中で脳神経や心臓系の異常は、緊急で対応しなければ生命の危機にさらされます。そのため吐き気の診療には緊急性の判断が求められます。


それでは吐き気を催した場合に、最初に受診するべき診療科はどこでしょうか?吐き気で受診に困った場合はまず消化器内科を受診することをお勧めいたします。消化器内科医は内科の専門家であり、また消化器の専門家ですので緊急性の判断だけでなく、胃カメラや腹部超音波などの精査まで実施可能です。安心して受診してください。



 

吐き気から疑う病気とは?



機能性ディスペプシア(FD)

 

機能性ディスペプシアとは、英語ではFD (Functional Dyspepsia)と呼ばれ、症状の原因となる明らかな病気(胃潰瘍や逆流性食道炎、代謝性の病気や全身性の病気)がないにも関わらず、長期間、鳩尾(みぞおち)の痛みや胃もたれ、吐き気などの上腹部を中心とした腹部の症状を呈する疾患です。


具体的には、食後腹部膨満感、早期満腹感、心窩部痛(鳩尾の痛み)、心窩部灼熱感の4つの症状がメインの病気です。腹部膨満感の症状が吐き気として自覚することもあります。


機能性ディスペプシアの患者さんは消化器内科の外来では多く、上腹部症状で来院されて、精密検査を行いますがはっきりとした原因が指摘できず、多くの方を悩ませています。日本の有病率は約10%で、欧米では15~25%程度と報告されています。


機能性ディスペプシアの原因はいくつか報告されており、胃の排出機能症状(迷走神経機能の障害)、内臓の知覚過敏状態、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染、ストレスや社会的・環境的要因などが考えられています。つまり、胃の内容物の排泄に時間がかかる場合や、胃粘膜の知覚過敏で内容物を敏感に感じ取ってしまう、ピロリ菌による炎症が症状に影響を与えると考えられています。



感染性胃腸炎

 

感染性腸炎とはその名の通り、何かしらの感染により引き起こされる胃や小腸、大腸の炎症です。主な症状は下痢や腹痛、血便、吐き気、嘔吐、発熱などがあります。主な感染症の原因としてはウイルスや細菌、寄生虫が挙げられます。


ウイルス性胃腸炎は集団感染を起こすこともあり、感染力が非常に強い感染症です。冬季に流行することが多く、ロタウイルスやノロウイルスが有名です。主な病変は小腸で、下痢が症状の中心になります。血便を伴うことは稀です。ウイルス感染症は症状が多彩になり、吐き気や下痢、腹痛を同時に呈することもあります。アルコール消毒だけでは不十分であり、石鹸を使用した十分な手洗いが予防のためには重要です。


細菌は食事を介することで発生する腸炎が有名で食中毒の原因になります。カンピロバクター感染症は頻度が多く、水や鶏肉などを摂取し2〜5日で発症するとされています。続いてサルモネラ感染症があり、これは鶏卵やその加工品などから感染することが報告されています。サルモネラ感染症は症状が強く出ることが多く、下痢や発熱、時に血便を呈することがあります。腹痛も出現することがあり、その影響で吐き気をきたすこともあります。その他、食事による集団食中毒で有名な腸管出血性大腸菌O-157などがあります。治療は抗生物質を使用することがあります。


寄生虫による腸炎はアメーバ赤痢などがあります。こちらも水や食物を介して感染することが報告されています。


また腸管の感染が広範囲に及ぶと、腸だけでなく胃の症状も併発し、嘔吐、下痢、腹痛などを呈する感染性胃腸炎に進展します。基本的に予防が大切であり、帰宅時や食事前などのタイミングで十分な石鹸での手洗いが推奨されます。また、症状が出現して食事摂取が難しい場合でも脱水を防ぐために、水分摂取は十分に摂るようにしてください。最近はOS-1など経口補水液などがあり、飲みやすいタイプの製品もあります。



逆流性食道炎

 

逆流性食道炎は日本人においては約10%の有病割合と推計されています。つまり日本人の10人に1人は、胸焼けや喉の焼ける感じの症状である呑酸(どんさん)症状があります。近年はヘリコバクター・ピロリ菌の感染率の低下により、胃酸分泌が日本人全体で増加していると言われているため、逆流性食道炎も増加傾向です。


逆流性食道炎とは文字通り、胃内の胃酸を含んだ内容物が食道に逆流することで起こる病態です。食道と胃の境界部分である食道胃接合部には、下部食道括約筋と呼ばれる逆流を防ぐ機能を持った括約筋が存在します。通常は括約筋が閉まっており、胃の入口は閉まっている状態です。そして食べ物が通過する際には、括約筋が緩み(弛緩)食べ物が食道から胃に通過していきます。


しかし、逆流性食道炎の病態はこの括約筋が閉まる逆流防止機能が弱くなり、食道粘膜が逆流した強酸である胃酸に暴露されることで症状が出現します。


胃酸の逆流を防ぐ下部食道括約筋の機能が低下する原因としては、以下のような背景があります。


  1. 括約筋の位置がずれている

  2. 胃内の圧が上昇し、逆流を防ぎきれない

  3. 括約筋自体の機能が低下している

  4. 胃酸の分泌量が増加している

  5. 食道の蠕動(動き)が悪く、食道内の食物の流れが遅い


逆流性食道炎の治療の第一ステップは、症状の直接的な原因となっている胃酸の分泌量を減らすため、胃酸分泌抑制薬が使用されます。さらに必要なこととしては、胃酸の逆流を起こさないよう、ダイエットによる減量、脂物の摂取を控える、運動習慣の改善など生活習慣の改善が望まれます。



急性胃炎

 

急性胃炎とは、胃の粘膜に急性の炎症が起こる疾患です。急に胃やみぞおちが痛くなったり、吐き気などの症状が現れたりするのが特徴です。暴飲暴食や薬の副作用、細菌による食中毒、腎不全や肝硬変などの疾患が原因で起こるものですが、ストレスが原因になるケースもあります。また、生魚の摂取後に寄生虫の一種であるアニサキスが胃粘膜に噛みつき、急激な胃痛をきたすこともあります。


内臓の機能は自律神経によってコントロールされ、胃酸の分泌による消化機能と、胃酸から胃粘膜を保護する機能のバランスが安定しています。しかし、ストレスや薬剤、感染症などの影響でそのバランスが乱れてしまいます。これら自律神経の乱れが起こると、胃酸が過剰に分泌され、または胃酸から胃粘膜を守る防御機能が低下します。その結果、胃粘膜が傷害されることで痛みが生じます。


診断には胃カメラが有用です。胃カメラでは、胃の粘膜の損傷(胃潰瘍や胃びらん)や発赤、出血所見を認める場合があります。治療は胃酸分泌抑制薬で胃の刺激を減らし、胃の動きを整える薬剤を使用する場合があります。また、食事は胃腸への刺激が少ないうどんやお粥を中心に摂取し、もし症状が強ければ食事をスキップすることも可能です。脱水に注意し、水分はしっかり摂取することが大切です。症状がある間はお酒やカレーなどの刺激物、喫煙などは控えてください。



腸閉塞 (イレウス含)

 

人間が食べた食事は口から肛門まで一本の消化管の中を通過し、消化吸収されます。口から肛門までは一般的に8〜9m程度の長さがあるとされています。

腸閉塞とは文字通り、一本道の小腸や大腸の途中で、がんや手術後の癒着などで内腔が狭くなり、食物が通過できない状態です。

次にイレウスと言う医学用語がありますが、広い意味では腸閉塞とイレウスは同じ意味として使用されます。しかし厳密にはイレウスとは“腸の閉塞がない“状況で、腸の動きが悪いがため一見して腸閉塞の状態が起こっている状態を意味します。つまりイレウスには腸が閉塞している箇所がありません。

腸閉塞やイレウスを発症すると、通過できない食物などの内容物が逆流し、嘔吐や腹痛などの症状を引き起こします。



胆石発作・胆のう炎・胆管炎

 

肝臓で生成された胆汁と呼ばれる消化液は胆管を通り一旦胆嚢に貯められます。そして食事の刺激により十二指腸に分泌され消化液として機能します。この胆汁は茶黄色の色で、人間の排泄物である便の色の要因になっています。


胆嚢結石(胆石)は胆嚢内にできた結石を指します。胆嚢結石ができやすい要因は4Fと呼ばれており、40〜50歳(fourty~fifty)、女性(female)、肥満(fatty)、多産の方(fertile)です。そしてこれに白色人種(fair)を加えて5Fと呼ぶ場合もあります。


この胆嚢結石が胆嚢の出口で詰まると胆石発作と呼ばれる痛みの発作が起こります。痛みの部位は右の肋骨の下が有名です。そして出口の詰まった胆嚢に感染や炎症が起きてしまうと胆嚢炎になります。胆嚢炎になると胆嚢の内部は汚い胆汁で破裂寸前になります。破裂する前に早急に胆嚢内の汚い胆汁を外に出してあげることが必要になります。その方法として皮膚から胆嚢を穿刺する方法や、外科的に胆嚢を切除する方法が行われます。


この胆嚢結石が胆嚢の外に出て、胆管で詰まってしまうと胆管炎を引き起こします。胆管炎の症状は(右)腹痛、発熱、そして黄疸です。黄疸は胆汁が胆管を通れなくなり、胆汁が体内に逆流し体が黄色くなります。その影響で便が着色されず白色便になります。胆管炎は感染症を合併すると非常に重篤な状態になるため、緊急で詰まりを解除する必要があります。特殊な胃カメラを使い結石を除去する内視鏡手術を行います。


急性膵炎

 

急性膵炎の痛みは非常に激しく、痛みに伴い吐き気を催します。膵臓は胃の背部に位置するホルモンや消化液を分泌する臓器です。インスリンの分泌が有名な膵臓の既往ですが、タンパク質を消化する消化液を分泌するのも膵臓の役割です。


急性膵炎は、膵臓の急激な炎症を特徴とする病状です。主な原因としては、胆石が胆管に詰まる、アルコールの過剰摂取、特定の薬剤、または高脂血症(中性脂肪)などがあります。急性膵炎はお腹の火事と例えられます。


膵臓はタンパク質を消化する消化液を産生する機能があります。そして人間の体はタンパク質でできています。通常、膵臓は非常に高性能であり、食べ物のタンパク質だけ消化するように管理されています。しかし一旦急性膵炎で膵臓に炎症が起こると、自分の体の成分であるタンパク質に対しても消化する作用が発揮されてしまいます。つまり自分の体を消化してしまいます。


そのため急性膵炎の症状は激烈な痛みと表現されるほど激しい腹痛と背部痛が起こります。急性膵炎を一度発症すると命に関わる状況であるため入院の上、高次医療機関での治療が必要になります。主な治療は大量の点滴を行い、体の炎症(火事)を鎮めることが大切です。その他には胆石が総胆管に詰まっている状況であれば、特殊な胃カメラを使用した結石除去術が行われます。



心筋梗塞

 

動脈硬化を背景に心臓の血管である冠動脈が狭窄・閉塞することで、心臓に酸素が供給されず心臓の筋肉が虚血状態になる病態です。

緊急での対応が必要であり、可及的速やかに循環器内科の専門病院に搬送し、カテーテル治療を行う必要があります。


吐き気だけでなく、胃部の痛み、肩へ放散する痛み、胸の圧迫感などの症状も認めた場合は注意が必要です。特に喫煙歴や肥満のある50歳以上の男性に好発します。



便秘症

 

便秘は消化器内科では一般的な症状ですが、便通の流れが滞ることで吐き気を催すこともあります。そもそも便秘とは「本来排泄すべき糞便が大腸内に滞り、兎のフンのような便や硬い便、排泄回数の減少、過度な怒責(いきみ)、残便感、肛門の閉塞感、排便困難感を認める状態」と定義されています。


便秘の期間としては6月以上前から症状が発症し、最近3ヶ月間はその症状が持続していることとされています。また過敏性腸症候群の病態と関連し、慢性的な腹痛の原因にもなりえます。さらに便秘は日常生活の質を低下させると言われております。そして便秘は過度な怒責(いきみ)を誘発し、排便失神や循環器系に負荷がかかりやすいことが知られています。腸内細菌叢が変化することも合わさり、動脈硬化や心血管疾患などの発症にも関わっています。


治療により患者さんの負担が軽減されば、心身ともに良い効果が多くあります。


便秘には大きく二つのタイプがあり、機能的便秘と器質的便秘です。腸が便を作り、肛門の方に移動させるプロセスが弱くなることで起こる便秘が機能的便秘です。一方、器質的便秘は大腸がんなど便の流れを悪くする要因がはっきりしている便秘を指します。


機能的便秘と診断するにはまず、大腸カメラで大腸がんなどの器質的便秘の原因がないことを確認することが必要です。


便秘の治療として大切なのは食生活の改善と運動習慣の確立です。心身とも安定した生活は排便にも良い影響を与えます。そして何より決まった朝の時間に毎日排便する習慣を作ることがとても大切です。その上で便秘薬での薬物治療が選択されます。



虫垂炎

 

一般的には“盲腸“と呼ばれる病名ですが、正式には(急性)虫垂炎です。

腹部右下に位置する虫垂と呼ばれる盲腸から突出した小さな器官に炎症が生じる病気です。

炎症が生じる原因は便が詰まることや虫垂内で細菌が増殖してしまう感染症です。

主な症状は胃部から右下腹部へ移動する疼痛や吐き気、発熱です。


治療は原則として外科手術による虫垂切除術です。また場合によっては抗生物質で経過を見る場合も選択される場合があります。



糖尿病

 

糖尿病とは血液中の糖の値である血糖値が一定の水準より高い病気です。糖質は生命活動に必須の栄養素であるため、何が問題となるのでしょうか?実は糖尿病が管理されていない不安定な血糖値が長期間続く場合、命に関わる合併症が起こることが判明しています。


糖尿病に特徴的な3代合併症とされているものは、糖尿病性網膜症(失明の原因)、糖尿病性腎症(透析の原因)、糖尿病性神経障害(慢性的な痺れなどの原因)が特に有名です。


また、その他にも有名な合併症があり、動脈硬化に伴う心疾患(虚血性心疾患など)や脳卒中、感染症にかかり易くなり致命的になるなどが挙げられます。これらの合併症は適切な血糖値の管理を行えば予防することが可能です。


糖尿病に伴い吐き気が生じる理由としては、血糖降下薬の副作用、以上な高血糖や低血糖に伴う症状、糖尿病により胃の運動機能が低下している、などが背景にあります。そのため吐き気症状の改善には安定した糖尿病のコントロールが不可欠です。



高血圧性緊急症

 

高血圧緊急症とは、異常な血圧上昇(収縮期血圧180/120 mmHg以上)により、脳や心臓、腎臓に臓器障害をきたす緊急性のある状態です。降圧薬の飲み忘れや、脳卒中、虚血性心疾患、副腎系ホルモンや甲状腺の異常などが原因になります。


また、血圧の異常ですが、症状を呈することもあり、頭痛や吐き気、視力の異常や脱力などがあります。日頃の血圧より異常な血圧で症状がある場合は、早期の受診が推奨されます。



良性発作性頭位めまい症

 

耳の内部にある内耳は聴力だけでなく、体の平衡感覚を司る場所になります。この平衡感覚は耳石という石によって管理されています。この耳石の位置がずれてしまい、平衡感覚が狂ってしまいめまいや吐き気を呈する状態が良性発作性頭位めまい症です。


内服薬で改善することが多いですが、再発することも多い病気です。



くも膜下出血

 

緊急の対応が必要な頭痛の代表格がくも膜下出血になります。典型的な症状としてはバットで殴られたような突然起こる頭痛です。

脳に血流を供給する動脈に動脈瘤(こぶ)ができ、その動脈瘤が破裂することで発症します。

治療は動脈瘤にコイルを詰めるカテーテル治療や、開頭手術での動脈瘤のクリッピングが行われることがあり、脳神経外科の早急な受診が必要です。


また、くも膜下出血は遺伝性の報告もあり、直系の親族でくも膜下出血の既往がある場合は、脳ドックで脳血管の精査を受けることをお勧めします。



髄膜炎

 

重要な臓器である脳や脊髄などの中枢神経系は、髄液という液体に包まれ、さらに外側を髄膜という保護膜に覆われています。その髄膜や髄液に炎症を起こすことを髄膜炎と言います。主な症状は、発熱、頭痛、首の痛み、そして吐き気などです。


髄膜炎の炎症の原因は、感染症によるものと、感染症ではないものがあります。軽度の髄膜炎であれば、抗生剤の点滴などで改善しますが、重症な髄膜炎であれば、集中治療室での入院治療が必要になります。


吐き気、発熱、首が動かせないほどの痛みがある場合は、髄膜炎の疑いがありますので、すぐに受診してください。


Comments


Commenting has been turned off.

標榜診療科

内科、内視鏡内科、消化器内科、胃腸内科、肝臓内科

住所

〒 730-0013 広島県 広島市中区八丁堀11-19 坪井第二ビル 3階

診療時間

月~金  9:00~18:00 / 土曜・日曜  9:00~15:00

休診日

祝日、GW、お盆、年末年始

Ⓒ 8chobori clinic 

bottom of page