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下痢症状から疑う病気について

下痢とは便に含まれる水分量の異常で、水分が多くなりペースト状になった便を軟便、さらに水分量が多くなり水っぽくなった便を下痢と言います。衛生環境が整備されている日本においては途上国の人や途上国などに渡航した際に発症する渡航者下痢症の発生は稀です。そのためここでは基本的な衛生環境の整った日本での下痢について述べます。下痢の原因は大腸などでの水分の吸収低下または活発な水分分泌により便中の水分量が増加することです。下痢は症状の持続期間により以下のように定義されます。


  • 急性下痢:症状出現後14日以内の下痢

  • 持続性下痢:症状が14日から30日未満

  • 慢性下痢:症状が30日以上継続する下痢


下痢のほとんどを占める急性下痢は感染症による感染性腸炎が多いです。一方下痢症状が長期間続く場合は潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患や慢性膵炎、そして大腸がんの可能性を考慮する必要があります。またこれらの病気が否定的な場合は過敏性腸症候群などの機能的な病態が関与している場合があります。そのため慢性的に続く下痢がある場合は、積極的に大腸カメラを受けて頂くことを推奨致します。



 

下痢症状で疑う病気とは?



感染性胃腸炎

 

感染性腸炎とはその名の通り、何かしらの感染により引き起こされる胃や小腸、大腸の炎症です。主な症状は下痢や腹痛、血便、吐き気、嘔吐、発熱などがあります。主な感染症の原因としてはウイルスや細菌、寄生虫が挙げられます。

ウイルス性胃腸炎は集団感染を起こすこともあり、感染力が非常に強い感染症です。冬季に流行することが多く、ロタウイルスやノロウイルスが有名です。主な病変は小腸で、下痢が症状の中心になります。血便を伴うことは稀です。アルコール消毒だけでは不十分であり、石鹸を使用した十分な手洗いが予防のためには重要です。

細菌は食事を介することで発生する腸炎が有名で食中毒の原因になります。カンピロバクター感染症は頻度が多く、水や鶏肉などを摂取し2〜5日で発症するとされています。続いてサルモネラ感染症があり、これは鶏卵やその加工品などから感染することが報告されています。サルモネラ感染症は症状が強く出ることが多く、下痢や発熱、時に血便を呈することがあります。その他食事による集団食中毒で有名な腸管出血性大腸菌O-157などがあります。治療は抗生物質を使用することがあります。

寄生虫による腸炎はアメーバ赤痢などがあります。こちらも水や食物を介して感染することが報告されています。


また腸管の感染が広範囲に及ぶと腸だけでなく胃の症状も併発し、嘔吐、下痢、腹痛などを呈する感染性胃腸炎に進展します。基本的に予防が大切であり、帰宅時や食事前などのタイミングで十分な石鹸での手洗いが推奨されます。また症状が出現して食事摂取が難しい場合でも脱水を防ぐために、水分摂取は十分に摂るようにしてください。最近はOS-1など経口補水液などがあり、飲みやすいタイプの製品もあります。



潰瘍性大腸炎

 

潰瘍性大腸炎(UC)とは大腸の慢性炎症性腸疾患(IBD)の一つです。未だに原因が特定されておらず、特定疾患治療研究対象に指定された難病になります。潰瘍性大腸炎の患者さんは日本では20万人を超え、軽症を含めると年々増加しています。発症のメカニズムは現在も解明されていませんが、直系の親族で潰瘍性大腸炎の発症を複数認めることを経験することも多いため、何かしらの遺伝子の異常が背景にあるのではとも考えられています。


以下の症状は潰瘍性大腸炎の代表的な症状です。

  • 下痢:血便や粘液の混じった下痢が頻繁に起こります。

  • 腹痛や腹部不快感:軽度から重度までの腹部の痛みがあります。

  • 血便:大腸の炎症によって生じるため、便中に血が混じることがあります。

  • 下痢や出血による貧血:慢性的な出血や栄養吸収の問題により、貧血を引き起こす可能性があります。

  • 発熱や体重減少:全身的な症状も発生することがあります。


潰瘍性大腸炎は慢性疾患であるため、基本的に月単位の長期間上記の症状を呈します。そのため数日前からの症状であれば潰瘍性大腸炎の可能性は下がります。

診断は大腸カメラで大腸粘膜の観察と組織検査が必要です。治療は5-ASA製剤を使用し炎症を抑制し、重度の場合は免疫抑制剤やステロイドを併用します。



クローン病

 

クローン病(Crohn's disease)は、消化管に慢性的な炎症を引き起こす原因不明の疾患で、炎症性腸疾患(IBD)の一種です。口から肛門までの消化管のどの部分にも影響を及ぼしますが、特に小腸と大腸が最も影響を受けやすいです。クローン病は寛解と再発を繰り返すことが特徴で、患者によって症状の重さや進行度が異なります。主な症状として以下の症状が挙げられます。


  • 腹痛:特に右下腹部に痛みを感じることが多いです。

  • 下痢:慢性的な下痢が見られ、血便が出ることもあります。

  • 体重減少:消化吸収不良のため、体重が減少することがあります。

  • 発熱:慢性的な炎症による軽度から中等度の発熱。

  • 倦怠感:慢性的な疲労感が伴います。

  • 栄養不良:腸管の炎症が原因で、必要な栄養素の吸収が妨げられます。


クローン病の原因は不明ですが、免疫系の異常、遺伝や環境因子など発症・増悪因子が考えられています。治療は潰瘍性大腸炎と類似していますが、薬物治療が中心となります。そして小腸や大腸の癒着で瘻孔(腸と腸が穴で繋がる状況)を作ったり、小腸の狭窄を起こしたりする場合は手術が必要になります。そのために定期的に炎症性腸疾患の専門家の外来に通院をする必要があります。



大腸がん

 

大腸がんに特徴的な症状は血便ですが、実は排便習慣の異常も初期症状としては重要です。排便習慣の異常をきたす大腸がんの特徴としてはサイズが大きく、便の通過がスムーズにいかなくなっている状況が挙げられます。便の流れが悪くなると便を柔らかくさせようと、硬便の周囲に水分が多くなり、その水分が排泄されることで下痢の症状となります。そのため下痢が長期間続くようであれば大腸カメラが強く推奨されます。



過敏性腸症候群

 

過敏性腸症候群(IBS:Irritable Bowel Syndrome)は、食道や胃、大腸などの消化管に明らかな異常がないにもかかわらず、腹痛や腹部の不快感を伴う便通異常を特徴とする機能性胃腸障害です。このIBSは日本人の有病率が11%とされており、10人に1人はIBSがあると言われています。男女別では女性にやや多い傾向があり、年齢別では40歳以下に多く、年齢とともに有病率は低下する傾向があります。

IBSの主な症状は腹部症状と排便異常になります。


  • 腹痛または腹部不快感:特に排便後に軽減することが多いです。

  • 便通の変化:下痢、便秘、またはその両方が交互に現れることがあります。

  • ガスや膨満感:お腹が張る感じやガスが溜まる感じがします。


IBSは器質的疾患(大腸がんなどの明らかな病気)がないことが前提になる疾患です。そのため排便異常や腹痛が長期に及ぶ場合は大腸カメラでの精査が必要になります。特にレッドフラグと呼ばれる警告症状(発熱や関節痛、血便や下血、6ヶ月以内の予期せぬ体重減少(3kg以上)、腹部腫瘤の知覚など)を認めた場合は早期に大腸カメラを受けることが強く推奨されます。IBSの治療は便秘薬や便の硬さを調整する薬剤、腸管蠕動を調整する薬剤など内服薬の治療が中心になります。



慢性膵炎

 

慢性膵炎は脂肪を消化する消化液を分泌する膵臓の働きが低下することで、脂肪が消化不全になり、そのまま便に脂肪が排泄される脂肪便となり、下痢が誘発されます。また慢性膵炎は慢性的な腹痛も特徴的な症状であり、これらの症状とCTなどで特徴的な慢性膵炎の所見を認めたら診断となります。長期的なアルコールの多量摂取や急性膵炎の既往などが慢性膵炎の危険因子になります。治療は禁酒などの根本的な治療に合わせて、消化酵素を補充する治療が下痢や腹痛の改善には有効です。



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