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お腹が痛いときに疑う病気について

お腹が痛い(腹痛)について


「お腹が痛い(腹痛)」は最も一般的な症状の一つです。腹痛の原因は多岐に渡り、消化器の臓器である胃、大腸だけでなく、肝臓や胆嚢・胆管、婦人科系臓器である子宮や卵巣、腹部大動脈など多くの臓器が腹痛の原因となります。腹痛の原因を探るため、消化器の専門医は問診で情報を集め、血液検査や腹部超音波、胃カメラ、大腸カメラなどで精密検査を勧めます。特に問診は非常に重要な情報源になります。例えば波のある痛み(痛みの強さが変わる)や下痢などの排便異常を伴っている場合は胃腸などの消化管の症状を強く示唆します。また秒単位で発症のタイミングがわかる痛みは破れる・詰まる・捻れる(ねじれる)など、緊急の対応が必要になるサインでもあります。それらの情報を基に、必要な検査を判断していきます。



 

お腹が痛いときに疑う病気とは?



機能性ディスペプシア

 

機能性ディスペプシアとは英語ではFD(Functional Dyspepsia)と呼ばれ、症状の原因となる明らかな病気(胃潰瘍や逆流性食道炎、代謝性の病気や全身性の病気)がないにも関わらず、長期間、鳩尾(みぞおち)の痛みや胃もたれなどの上腹部を中心とした腹部の症状を呈する疾患です。具体的には食後腹部膨満感、早期満腹感、心窩部痛(鳩尾の痛み)、心窩部灼熱感の4つの症状がメインの病気です。機能性ディスペプシアの患者さんは消化器内科の外来では多く、上腹部症状で来院されて、精密検査を行いますがはっきりとした原因が指摘できず、多くの方を悩ませています。日本の有病率は約10%で欧米では15~25%程度と報告されています。

機能性ディスペプシアの原因はいくつかの報告されており、胃の排出機能症状(迷走神経機能の障害)、内臓の知覚過敏状態、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染、ストレスや社会的・環境的要因などが考えられています。つまり胃の内容物の排泄に時間がかかる場合や、胃粘膜の知覚過敏で内容物を敏感に感じ取ってしまう、ピロリ菌による炎症が症状に影響を与えると考えられています。



胃潰瘍・十二指腸潰瘍

 

潰瘍とは粘膜が掘られ欠損した状態のことです。胃にできる潰瘍が胃潰瘍、十二指腸にできる潰瘍が十二指腸潰瘍です。つまり胃と十二指腸に粘膜が欠損した穴ができているということです。消化器内科の世界で有名な格言があります。“No acid, No ulcer” “胃酸が寄与しない胃潰瘍はない”つまり胃潰瘍の直接的な原因は胃酸であり、胃酸がなければ潰瘍にならないということです。胃潰瘍の直接的な原因は胃酸の暴露ですが、間接的には胃酸と胃粘膜の防御力のバランスが崩れた時に胃潰瘍や十二指腸潰瘍が起こります。その均衡を崩す要因がいくつか存在します。その明確な要因としてはヘリコバクター・ピロリ菌の感染と鎮痛剤(NSAIDs)の使用です。そのため治療の第一段階は直接的な原因である胃酸の分泌を抑制する制酸薬(プロトンポンプ阻害薬やカリウムイオン競合型胃酸抑制薬)が使用されます。そして第二段階としてヘリコバクター・ピロリ菌の除菌治療や鎮痛剤(NSAIDs)の使用の中止、または胃酸抑制薬との併用を行います。この第二段階までしっかりと治療することがその後の潰瘍の再発抑制に重要になります。

一般的には胃潰瘍の原因として心理的要因(ストレス)が有名ですが、実は胃潰瘍と心理的要因の因果関係は明らかになっておりません。



急性膵炎

 

膵臓は胃の背部に位置するホルモンや消化液を分泌する臓器です。インスリンの分泌が有名な膵臓の既往ですが、タンパク質を消化する消化液を分泌するのも膵臓の役割です。急性膵炎は、膵臓の急激な炎症を特徴とする病状です。主な原因としては、胆石が胆管に詰まる、アルコールの過剰摂取、特定の薬剤、または高脂血症(中性脂肪)などがあります。

急性膵炎はお腹の火事と例えられます。膵臓はタンパク質を消化する消化液を産生する機能があります。そして人間の体はタンパク質でできています。通常、膵臓は非常に高性能であり、食べ物のタンパク質だけ消化するように管理されています。しかし一旦急性膵炎で膵臓に炎症が怒ると、自分の体の成分であるタンパク質に対しても消化する作用が発揮されてしまします。つまり自分の体を消化してしまいます。そのため急性膵炎の症状は激烈な痛みと表現されるほど激しい腹痛と背部痛が起こります。

急性膵炎を一度発症すると命に関わる状況であるため入院の上、高次医療機関での治療が必要になります。主な治療は大量の点滴を行い、体の炎症(火事)を鎮めることが大切です。その他には胆石が総胆管に詰まっている状況であれば、特殊な胃カメラを使用した結石除去術が行われます。



胆石発作・胆嚢炎・胆管炎

 

肝臓で生成された胆汁と呼ばれる消化液は胆管を通り一旦胆嚢に貯められます。そして食事の刺激により十二指腸に分泌され消化液として機能します。この胆汁は茶黄色の色で、人間の排泄物である便の色の要因になっています。胆嚢結石(胆石)は胆嚢内にできた結石を指します。胆嚢結石ができやすい要因は4Fと呼ばれており、40〜50歳(fourty~fifty)、女性(female)、肥満(fatty)、多産の方(fertile)です。そしてこれに白色人種(fair)を加えて5Fと呼ぶ場合もあります。この胆嚢結石が胆嚢の出口で詰まると胆石発作と呼ばれる痛みの発作が起こります。痛みの部位は右の肋骨の下が有名です。そして出口の詰まった胆嚢に感染や炎症が起きてしまうと胆嚢炎になります。胆嚢炎になると胆嚢の内部は汚い胆汁で破裂寸前になります。破裂する前に早急に胆嚢内の汚い胆汁を外に出してあげることが必要になります。その方法として皮膚から胆嚢を穿刺する方法や、外科的に胆嚢を切除する方法が行われます。

この胆嚢結石が胆嚢の外に出て、胆管で詰まってしまうと胆管炎を引き起こします。胆管炎の症状は(右)腹痛、発熱、そして黄疸です。黄疸は胆汁が胆管を通れなくなり、胆汁が体内に逆流し体が黄色くなります。その影響で便が着色されず白色便になります。胆管炎は感染症を合併すると非常に重篤な状態になるため、緊急で詰まりを解除する必要があります。特殊な胃カメラを使い結石を除去する内視鏡手術を行います。



尿路結石

 

尿路結石は、尿路(腎臓、尿管、膀胱、尿道)内に石(結石)が形成される状態です。結石は、尿中のミネラルや塩分が結晶化してできるもので、さまざまなサイズや種類があります。特に腎臓と膀胱を繋ぐ尿管は距離が長く、非常に詰まりやすくなっています。有名な症状は結石が詰まっている側の側背部の叩打痛(こうだつう:叩くと痛みが腹部側に放散し、響く痛み)です。また肉眼的にもわかる血尿を呈することもあります。尿路結石を疑う際は尿検査で潜血が陽性になるか確認し、腹部レントゲンなどで結石が映るか確認します。

尿路結石の治療は鎮痛剤を使用しつつ、自然に結石が排石されることを期待し、しっかりと水分を摂取することが推奨されます。自然に排石が期待できない場合は体外から衝撃波を使用して結石の破壊を試みる治療や、尿道からカテーテルを使い結石の破砕を試みることもあります。これらは泌尿器科の領域になります。また食事の意識も大切であり、食塩の制限や過剰な糖質は控えることが推奨されております。


虚血性腸炎

 

虚血性腸炎は字の如く”大腸の血の流れが悪くなる(虚血)”病気です。実は左側の大腸(横行結腸、下行結腸、S状結腸)は心臓からの血流が一番遠い場所の一つと言われています。そのため生理的に血の流れが悪くなりやすい部位になります。そこに加齢や生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症)による動脈硬化によって血流の悪化し、さらに便秘に伴う腸管の内圧の上昇を伴うことで虚血性腸炎を発症します。発症する背景としては2つの要素があり血管側の因子(動脈硬化、心不全や腎不全などによる循環不全、腹部手術後、血管攣縮など)と腸管側の因子(便秘,腸管内ガス貯留,腸内容排泄遅延,洗腸や座薬使用,大腸内視鏡検査前処置など)に分けられます。

虚血性腸炎の3大症状は腹痛、下痢そして血便です。そして好発年齢としては60歳代以上であり、女性が多い傾向があります。典型的な例としては60歳代の女性が腹痛と下痢を発症し、その後血便を認めたため病院に来院する、などがあります。

血の巡りの悪化が原因であり、一部では腸が壊死する重症な場合もありますが、ほとんどの場合は一過性型であり、数日で改善することが多いです。重要なポイントとしては症状が強い間は大腸カメラでの診断は必要ありませんが、症状が安定したタイミングで大腸カメラを受けることが推奨されます。血便の背景に大腸がんが隠れているかはしっかり精査する必要があります。


虫垂炎・大腸憩室炎

 

大腸憩室とは大腸の壁が外側に突出して、内側から見れば袋状になった構造物を言います。日本人では大腸憩室の保有者は23.9%(2001-2010年の統計)であり、4人に1人は保有していることになります。欧米の国に比しては少ないですが、食の欧米化の影響か、大腸憩室を保有する日本人は増えてきています。一方虫垂とは大腸の一番奥である盲腸に存在する外側に管状になった突起構造です。大腸憩室炎と虫垂炎は共に袋状の構造物に糞便がはまり込み、袋の中で炎症を起こす病態を指します。

大腸憩室炎と虫垂炎の機序は同じですが、治療方針は大きく異なります。大腸憩室炎は軽症であれば抗生剤を使用せず、症状が強い間は絶食、その後改善の程度を見ながら消化の良い食事を開始していきます。膿瘍など強い感染があれば抗生剤の使用が必要になる場合や、手術が必要になる場合もあります。一方、虫垂炎は原則手術が必要です。虫垂炎を放置すれば袋状の構造が破裂する可能性があり、その場合、重篤な腹膜炎を引き起こす可能性があるからです。軽症の場合は抗生剤での治療で経過を見る場合もありますが、基本的には消化器外科の医師による判断が必要です。


過敏性腸症候群

 

過敏性腸症候群(IBS:Irritable Bowel Syndrome)は、食道や胃、大腸などの消化管に明らかな異常がないにもかかわらず、腹痛や腹部の不快感を伴う便通異常を特徴とする機能性胃腸障害です。このIBSは日本人の有病率が11%とされており、10人に1人はIBSがあると言われています。男女別では女性にやや多い傾向があり、年齢別では40歳以下に多く、年齢とともに有病率は低下する傾向があります。

症状のタイプとしては下痢型、便秘型、そして混合型があります。共通することはこれらの排便異常に伴い、長期間に及ぶ腹痛の症状があることです。過敏性腸症候群の原因は未だ明らかにされていませんが、いくつかの可能性が考えられています。

腸の運動機能の異常:腸の蠕動運動の異常が原因で便通が乱れることがあります。

腸内細菌の変化:腸内フローラのバランスが崩れることが関与している場合があります。

食事とライフスタイル:特定の食品やストレスが症状を悪化させることがあります。

脳-腸相互作用の異常:脳と腸のコミュニケーションの問題が関係していることがあります。(腸脳相関)

治療としては食事内容の見直しや生活習慣の改善、そして薬物治療が選択されます。


便秘症

 

便秘は消化器内科では一般的な症状です。そもそも便秘とは「本来排泄すべき糞便が大腸内に滞り、兎のフンのような便や硬い便、排泄回数の減少、過度な怒責(いきみ)、残便感、肛門の閉塞感、排便困難感を認める状態」と定義されています。便秘の期間としては6月以上前から症状が発症し、最近3ヶ月間はその症状が持続していることとされています。また過敏性腸症候群の病態と関連し、慢性的な腹痛の原因にもなりえます。さらに便秘は日常生活の質を低下させると言われております。そして便秘は過度な怒責(いきみ)を誘発し、排便失神や循環器系に負荷がかかりやすいことが知られています。腸内細菌叢が変化することも合わさり、動脈硬化や心血管疾患などの発症にも関わっています。治療により患者さんの負担が軽減されば、心身ともに良い効果が多くあります。

便秘には大きく二つのタイプがあり、機能的便秘と器質的便秘です。腸が便を作り、肛門の方に移動させるプロセスが弱くなることで起こる便秘が機能的便秘です。一方、器質的便秘は大腸がんなど便の流れを悪くする要因がはっきりしている便秘を指します。機能的便秘と診断するにはまず、大腸カメラで大腸がんなどの器質的便秘の原因がないことを確認することが必要です。

便秘の治療として大切なのは食生活の改善と運動習慣の確立です。心身とも安定した生活は排便にも良い影響を与えます。そして何より決まった朝の時間に毎日排便する習慣を作ることがとても大切です。その上で便秘薬での薬物治療が選択されます。


膀胱炎・婦人科疾患

 

膀胱や子宮・卵巣などの婦人科臓器は下腹部に位置します。そのためこれらの臓器の症状は下腹部痛で現れることがあります。一般的に膀胱炎は発熱を伴わず、排尿時の尿道の痛みとして自覚されます。特に尿道の短い女性に多く見られます。男性の膀胱炎は発症頻度が低く、診断された際には泌尿器科の医師に背景に尿路感染の危険因子がないか精査してもらうことが望まれます。治療は抗生剤治療が中心になります。婦人科疾患は生理周期と関係する痛みや性交時の痛みなど、様々な要因やタイミングで腹痛の症状が起こります。婦人科健診を受けたことのない方は一度婦人科を受診されることをお勧めします。

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