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胃下垂(いかすい)について

胃下垂とは


胃下垂とは胃の位置が下腹部に移動した状態を指します。通常、胃はみぞおちの下、腹部の上部にありますが、胃下垂では腹部の下方に位置し、時には骨盤に近づくこともあります。一般的に良性や悪性など組織の異常ではなく、単純に胃の位置が通常よりずれている状態を指します。つまり胃下垂自体は病気ではありません。しかし、胃がより腹部の下方にずれてしまうことで、さまざまな症状が起きることがあります。





 

胃下垂になりやすい人


胃下垂を含めた内臓下垂の背景にあるのは臓器を固定する靭帯や筋肉の弱体化があります。以下の方々は臓器の保持力が低下し胃下垂に代表される臓器下垂を起こしやすくなっています。また十二指腸潰瘍に代表される十二指腸狭窄で胃・十二指腸の食物の通過が妨げられることで胃の重量が増加し、またその重量で胃の出口を調整する幽門括約筋が牽引され開口が阻害され、さらに胃下垂を増悪させることもあります。

また非常に稀ですが、小児での発症の報告もあります。


  • 痩せ型の女性

  • 幼少期から虚弱体質と言われている人

  • 筋肉量が少ない方

  • 出産経験のある方

  • 姿勢が悪い方(特に猫背のように腹部に変な圧がかかる姿勢)

  • 暴飲暴食など食事量が極端

  • 不安やストレスなどが多い人

  • 遺伝的な要因




 

胃下垂の症状


胃下垂に特徴的な症状はありませんが、下記症状は胃下垂を考える症状になります。


消化不良、食欲不振、吐き気、腹鳴(ふくめい)、嘔吐、テネスムス(しぶり腹)、重度の便秘や下痢、腹部膨満感、腹痛、胃アトニー(胃の動きが弱くなる)


胃下垂などの内臓保持機能低下は臓器を保持する筋肉の弛緩や伸展(伸び縮み)、緊張度の低下を伴うため、消化の遅延を引き起こします。その影響でガスの産生が促進され、小腸や大腸の拡張と便秘の原因になります。


一方、胃下垂が胃部不快感や胃酸の逆流の症状を緩和することもあると報告する研究結果もあります。これは胃が下垂する影響で、食道までの逆流の距離が長くなることが背景にある可能性があります。


 

胃下垂の検査


胃透視検査(バリウム造影検査)

 

X線を用いたバリウム造影検査が診断に有効になります。特に立った状態で胃の位置を見ることは診断に非常に有用です。


胃カメラ

 

胃カメラでは胃の走行を観察することができます。胃下垂の原因として胃の出口の通過障害がある場合があるので、胃内部の異常を確認することは非常に重要です。


胃排出シンチグラフィー

 

胃の内容物が十二指腸に移動(排泄)される過程を観察する検査で、胃排出異常が認められれば胃下垂の診断の重要な所見になります。


経鼻胃管の挿入とX線撮影

 

栄養供給を目的とする鼻から胃管(チューブ)を挿入し、胃内に展開することで胃の位置をX線上で確認することが可能になる場合もあります。このチューブの走行の異常を確認することも胃下垂の診断の一助になります。


 


胃下垂の治療法


非薬物治療

 
  • 食事は暴飲暴食を控えることが望まれます。一度に多くの食事を摂取すると重量により胃下垂を引き起こします。

  • まず1回あたりの食事量を減らし、その代わり食べる回数を増やすことで胃下垂の悪化を防ぐことも有効です。

  • 内臓の臓器を保持する筋肉量も胃下垂の原因になるので、腹筋など筋肉量を増やすトレーニングは有効な方法です。ただし、過度なトレーニングは症状悪化の原因になる可能性があります。


薬物治療

 

胃の蠕動不全(胃アトニー)を伴う胃下垂では漢方薬などの治療が有効になる場合があります。一般的に使用される漢方としては六君子湯などが挙げられます。また一般診療で使用される制吐剤であるドンペリドン(商品名 ナウゼリン)は胃の蠕動不全をともなっている際に有効であると報告されております。

 

外科的治療(手術)

 

症状が重度である場合は外科的に胃切除術や胃形成術が行われることもありますが、最近では選択されることは非常に稀です。

 

 

 

参考文献

  1. Christianakis E, Bouchra K, Koliatou A, Paschalidis N, Filippou D. Gastroparesis associated with gastroptosis presenting as a lower abdominal bulking mass in a child: A case report. Cases J. 2009;2(11):184.

  2. Kusano M, Moki F, Hosaka H, et al. Gastroptosis is associated with less dyspepsia, rather than a cause of dyspepsia, in Japanese persons. Intern Med 2011;50:667-71.

  3. 大滝梓. "胃下垂症の胃カメラ所見を中心とした臨床的研究." 昭和医学会雑誌 21.4 (1961): 438-446.

  4. Xu LC, Garcia JC. Gastroptosis in a young woman. Gastrointest Endosc 2024;99:454-455.

  5. Bestari MB, Chandra M, Joewono IR, et al. Gastroptosis due to Gastric Outlet Obstruction Secondary to Duodenal Tumor: Glenard's Disease Revisited. Case Rep Gastroenterol 2022;16:89-93.


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