私は日本で内視鏡の基本を学び、その後カナダのトロントで治療に特化した特殊内視鏡の研修(フェローシップ)を受けてきました。日本と世界(カナダの事情ですが)を比較すると、日本が医療において非常に恵まれている環境にあることを実感しました。そして内視鏡診療においてはさらに日本は恵まれています。なぜならば内視鏡診療は世界でもトップクラスと評価され、世界中から日本の内視鏡技術を学ぼうと多くの各国の専門医が来日しています。
世界の内視鏡のライブでも日本の内視鏡医が招聘され公開手技を行っています。そのような世界トップレベルの内視鏡診療を、保険診療で安く、そして緊急性があれば待ち時間なく受けることができます。
私が日本での内視鏡診療とカナダでの内視鏡診療の経験を通して学んだ違いについてまとめてみます。
1.日本と世界の内視鏡設備の違い
まず内視鏡のメーカーに関しては日本企業が世界を独占しています。世界のトップシェアはオリンパス、そして富士フィルム、ペンタックスと続きます。日本ではオリンパスがトップで富士フィルムと続きますが、カナダではよりオリンパスのシェアが高いイメージでした。トロントの内視鏡センターでは8室のうち、7室がオリンパス、1室が富士フィルムとなっていました。
性能の面では国によって内視鏡の信号処理システムが違います。面順次方式と同時方式です。詳細は割愛しますが、日本の内視鏡の性能は海外の内視鏡より一世代進んでいます。日本の企業ですから日本で最新の内視鏡がまず普及します。私がカナダでのフェローシップを修了し、日本の内視鏡を見た時の綺麗さは驚きました。当院で採用しているEVIS-X1でGIF-1500EZの画像を見たときは特に感動しました。
このように日本では海外に比較して、設備面でも恵まれている環境にあります。
画像提供:オリンパスマーケティング株式会社
2.日本と世界の内視鏡でわかる病気の違い
内視鏡で見る病気ももちろん日本とカナダでは違います。日本では“胃カメラ“と呼ばれるように胃がんの有無が胃カメラにおいて主要な評価項目です。一方、カナダでは胃は”通過する臓器”でした。近年は日本人の内視鏡医がカナダでも多く活躍し、現地の人の意識も変わってきていますが、現地では胃は病気がほとんど発生しない臓器とされていました。その大きな違いはピロリ菌の感染率の違いです。
日本人においてはピロリ菌の有病割合は減少傾向ですが、まだまだ多くの方にピロリ菌は感染しています。そのため胃がんはまだまだ一般的な病気です。一方カナダではピロリ菌の感染者が非常に稀です。一部アジア系の移民やタイプの違うピロリ菌が感染している影響なのか胃がんはほとんど発見されません(それでもカナダ中から症例が搬送されてくるため何人か胃がんの方は診療しました)。そのため現地の内視鏡医の多くは胃をあまり集中せずに観察することもありました。
それではカナダにおいてメインの観察場所はどこでしょうか?それは食道です。海外では肥満の患者が多く、逆流性食道炎が非常に多い地域になります。また慢性的な胃酸の逆流でバレット食道が発生しやすくなります。このバレット食道はバレット腺がんと呼ばれるタイプのがんを発生させるため定期的な経過観察が行われます。それを目的とした胃カメラ(食道カメラ?)が定期的に行われます。
一方、日本ではバレット食道はそこまで一般的ではありません。日本では扁平上皮がんと呼ばれるタイプの食道がんがメインになります。大酒家の方や重喫煙歴のある方はこのタイプの食道がんのリスクになります。積極的に胃カメラを受けることが推奨されます。
3.日本と世界の内視鏡のアクセスの違い
日本は国民皆保険が整備され、保険診療においては世界最高の体制となっています。つまり質の高い医療が、待ち時間なく、そして安い値段で受けることができます。このような制度では内視鏡専門医による胃カメラを運が良ければ受診当日に受けることも可能です。
一方カナダ(北米も欧州も)ではすぐに胃カメラや大腸カメラを受けることはできません。まず一度家庭医を受診して紹介状を用意してもらう必要があります。その後に専門医の外来を予約しますが、その段階で数ヶ月の時間を要します。もちろん命に関わる状態の場合は緊急の対応もありますが、原則的に数ヶ月単位で専門医の内視鏡を待つ必要があります。
またカナダでは治療が必要な特殊内視鏡は州内で集約化されています。私が勤めたSt. Michael’s Hospitalはカナダ最大規模の内視鏡センターであり、オンタリオ州内全域(日本より広い)からヘリコプターや飛行機で患者さんが日々搬送されてきていました。どんな特殊な内視鏡治療でも県内で完結できる日本の医療システムは非常に貴重な制度です。
4.日本と世界の内視鏡医のレベルの違い
内視鏡医の質においても日本は世界最高レベルです。これは日本の内視鏡医全体のレベルが高いことで、診断学や内視鏡治療のレベルが世界的に高く維持されていると思われます。カナダでは内視鏡センターに勤めるトップ内視鏡医のレベルは非常に高いですが、通常の胃カメラや大腸カメラをする内視鏡医(治療内視鏡のフェローシップを修了していない)のレベルは高くありません。
日本では内視鏡専門医が行う胃カメラや大腸カメラは、ある程度の検査の質は保たれていると思います。しかし内視鏡治療の経験などは検査の質を測る上で非常に重要な指標になります。胃カメラや大腸カメラを受ける際は担当する内視鏡医の経歴も確認することをお勧めします。
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