診療コラム

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便潜血検査が「陽性」なのに放置していませんか?放置のリスクと大腸がんのリアル

「健康診断の便潜血検査で陽性が出たけれど、お尻に血がついた自覚もないし、体調も悪くないから大丈夫だろう……」
「痔があるから、きっとそのせいだ。わざわざカメラ(内視鏡)をやるほどでもない。」

もし、あなたが今そう考えて受診を先延ばしにしているなら、この記事を最後まで読んで頂いて早めの受診をお勧めします。

内視鏡専門クリニックとして、そして医療の現場で「もっと早く来ていただければ……」という光景を何度も見てきた立場から、便潜血検査の陽性を放置することのリスクについて科学的根拠(文献的考察)を交えてお伝えします。

便潜血検査「陽性」の意味するところとは?

まず誤解を解いておきたいのは、便潜血検査は「大腸がんを見つける検査」である以上に、「大腸がんになる前のポリープや、早期がんのサインを見逃さないためのスクリーニング検査」であるということです。

便潜血検査は、便の中に目に見えない微量な血液(ヒトヘモグロビン)が含まれているかを調べるものです。陽性と判定された場合、大腸のどこかで出血が起きていることは間違いありません。

統計から見る「陽性」の中身

精密検査(大腸カメラ)を施行した結果、一般的には以下のような割合で病気が見つかります。

  • 大腸がん: 約2〜5%
  • 大腸ポリープ(腺腫): 約30〜50%
  • その他(痔、憩室炎、炎症性腸疾患など): 約30〜40%
  • 異常なし: 約10〜20%

「がんが見つかる確率は数パーセントなら、自分は大丈夫だ」と思うかもしれません。また上の統計を違った見方をすると、精密検査を受けて異常がない場合、もしくは治療が不要の病気しか見つからない場合が半分を占めます。便潜血検査の結果に絶望する必要は全くありません。しかし、この「数パーセント」を引いてしまった時の代償があまりにも大きいのが、大腸がんという病気の特徴です。

文献的考察:放置した期間と「生存率」の切実な関係

なぜ、医療従事者はこれほどまでに「陽性後の精密検査」を急かすのでしょうか。そこには明確なデータ(文献的根拠)があります。

放置期間が9ヶ月を超えると死亡リスクが急増する

米国医師会雑誌(JAMA)に掲載された大規模な研究データ(Corley et al. 2017)によると、便潜血検査が陽性になってから精密検査(大腸内視鏡)を受けるまでの期間と、大腸がんの発症・進行リスクには顕著な相関が見られました。

10ヶ月以上の放置

陽性判定から10ヶ月以上精密検査を遅らせた群では、1ヶ月以内に検査を受けた群と比較して、大腸がんがみつかるリスクが約1.5倍、進行がん(ステージの高いがん)で見つかるリスクが約1.7倍に跳ね上がることが示されています。

「まだ大丈夫」の猶予は半年

一般的に、陽性判明から6ヶ月以内であれば予後に大きな差は出にくいとされていますが、それを過ぎると一気にリスクの天秤が傾き始めます。

日本国内のデータ:精密検査未受診者の死亡率

日本国内の多施設共同研究においても、便潜血陽性後に精密検査を受けなかったグループは、受けたグループに比べて、大腸がんによる死亡リスクが約2.8倍(ほぼ3倍)高くなるという衝撃的な報告があります。

大腸は「沈黙の臓器」と喩えられることがあります。大腸の粘膜には痛みを感じる神経がほとんどありません。そのため、がんがかなり大きく進行して、腸の中を塞いでしまう(腸閉塞)状態や腸の外にまで広がった状態に進むまで、腹痛などの症状は出ません。

「症状がないから」という理由は、医学的には「がんがないこと・進行していない」ことの証明にはなりません。

「痔があるから大丈夫」という考えの落とし穴

多くの患者様が受診を控える理由の第1位が「自分は痔持ちだから、この血は痔のせいに違いない」という思い込みです。

しかし、ここには非常に危険な罠が潜んでいます。

出血源の重複

痔があるからといって、大腸がんがないという保証はどこにもありません。むしろ「痔の出血だ」と思い込むことで、がんからの出血を痔の出血として見逃してしまうケースが後を絶ちません。

便潜血検査の精度

現在の便潜血検査(免疫法)は、人間の血液にのみ反応します。痔の出血でも陽性になりますが、進行したがんや大きなポリープは便が擦れることで必ずと言っていいほど出血します。

「痔がある人こそ、がんのサインが痔に隠されてしまうため、内視鏡で一度確認する必要がある」。これが医療現場の常識です。

大腸がんは「予防できる」唯一に近いがんです

大腸がんの多くは、最初から「がん」として発生するわけではありません。「腺腫(せんしゅ)=adenoma」と呼ばれる良性のポリープが数年かけてがん化(adenocarcinoma)するというプロセス(adenoma-carcinoma sequence)を辿ります。

ここが、大腸内視鏡検査の最大のメリットです。

ポリープの段階で切除すれば、がんは予防できる

大腸カメラの際にポリープを見つけ、その場で切除(日帰り手術)してしまえば、将来その場所からがんが発生する芽を摘むことができます。

早期発見なら生存率は95%以上

万が一がんが見つかったとしても、ステージIの段階であれば5年生存率は95%を超えます。しかし、放置してリンパ節や他臓器に転移したステージIVでは、その数字は20%程度まで低下します。

便潜血陽性は、「あなたの体にがんがある」という宣告ではありません。「今なら、まだ間に合いますよ」「今見つければ、完治できますよ」という、体からのメッセージなのです。

「怖い」「痛そう」という不安を抱えている方へ

精密検査(大腸カメラ)への恐怖心から受診を躊躇される方も多いでしょう。 「下剤を飲むのが辛そう」「検査が痛いと聞いた」……そのお気持ちは痛いほどよく分かります。

しかし、現代の内視鏡技術は飛躍的に進化しています。

鎮静剤の使用
眠っている間に検査を終えることが可能です。

最新の細径スコープ
違和感を最小限に抑えた柔らかいカメラを使用します。

炭酸ガス送気
検査後のお腹の張りを速やかに解消します。

下剤の進歩
下剤の種類も複数あります。錠剤もあったり、飲みやすい量や味への改良であったりが年々進んでいます。

当院のような内視鏡専門クリニックでは、いかに「苦痛なく、精度の高い検査を行うか」に全力を注いでいます。一時の「面倒くさい」「怖い」という感情で、一生を左右する健康を損なってしまうのは、あまりにももったいないことです。

「恥ずかしい」「抵抗がある」という理由で、検査をためらっていませんか?

「検査が怖い・痛そう」という不安に加えて、特に女性の方から多く聞かれるのが、
「恥ずかしい」「できれば受けたくない」というお気持ちです。

これは決して特別なことではありません。

実際に、大腸がん検診や内視鏡検査を受けない理由についての国内調査では、

  • 「検査が恥ずかしい」 
  • 「男性医師に診られることへの抵抗感」 
  • 「下剤を飲む環境への不安」 
  • 「仕事や育児で時間が取れない」 

といった理由が多く挙げられており、特に女性では「羞恥心」や「プライバシーへの不安」が受診の大きなハードルになっていることが分かっています。

また、「症状がないからまだ大丈夫」と考えてしまうことも、受診が遅れる一因です。
しかし前述の通り、大腸がんは症状が出にくい病気であり、「症状がないこと」は安心材料にはなりません。

だからこそ、私たちは「検査の精度」だけでなく、「安心して受けられる環境」を整えることも同じくらい重要だと考えています。

プライバシーに配慮した検査環境

検査前の不安や羞恥心を少しでも軽減できるよう、環境面にも配慮している医療機関も多いです。

  • 下剤を服用するための専用スペースを用意 
  • トイレにすぐアクセスできる個別空間の確保 
  • 周囲の目を気にせず過ごせる導線設計 

など、「人目が気になる」というストレスがある方は、そのストレスを最小限に抑えている医療機関を選びましょう。

女性医師による検査にも対応

「できれば女性医師にお願いしたい」という声は少なくありません。

広島八丁堀内科・胃腸内視鏡クリニックでは女性医師による内視鏡検査にも対応しています。また看護師などのスタッフは基本的には女性スタッフを中心とした体制であるため、女性の方にも安心して検査を受けていただける環境が整えられている場合が多いです。

「恥ずかしい」という気持ちは自然なものです

検査に対して抵抗を感じるのは、ごく自然なことです。

ただ、医療現場ではこうした検査は日常的に行われており、
私たちは患者様一人ひとりのプライバシーと尊厳を守ることを最優先にしています。

実際に検査を受けられた方の多くが、
「思っていたより気にならなかった」
「もっと早く受けておけばよかった」
と感じておられます。

「怖い」「恥ずかしい」というお気持ちがあるのは当然です。
しかし、その一歩を乗り越えた先に、「早期発見」「安心」という大きなメリットがあります。

結びに:その「陽性」を、幸運に変えるために

便潜血検査で陽性が出たことは、決して「不幸なこと」ではありません。むしろ、自覚症状が出る前に異変に気づけた「幸運な機会」です。また、便潜血検査が陽性であれば、保険診療での大腸カメラが可能となり、費用面でも人間ドックの大腸カメラより安価に受けることができます。

もし放置してしまい、数年後に腹痛や血便、便が細くなるなどの症状が出てから来院された場合でも検査は必要になります。どうせ検査を受けるならば早く検査を受ける方がメリットは多いです。残念ながら大腸がんがあったとしても早期発見の方が治療の選択肢が多く、体に負担が小さい治療を受けられたり、完治が得られたりする可能性が高まります。

早めの精密検査を受け、数年後に、「あの時、検査を受けておいて本当に良かった」と思う人も少なくありません。繰り返しになりますが、便検査が陽性になった場合は、迷わず当院を含めた消化器内科を専門とした内視鏡専門クリニックを受診してください。