2026.06.02
おしりから粘液や臭いが気になるとき、その症状が示す可能性のある疾患とは?

「排便後に粘り気のあるものがついている」「おしりのあたりから気になる臭いがする」「下着が汚れている」――このような症状でお悩みの方は、意外に多くいらっしゃいます。しかし、デリケートな部位であるため、なかなか誰にも相談できず、悩みを一人で抱え込んでしまう方が少なくありません。
消化器病専門医による当院の専門外来では、こうした訴えで来院される患者さんは珍しくありません。おしりから粘液が出たり、臭いを感じたりする背景には、軽いものから放置してはいけないものまで、さまざまな疾患が潜んでいる可能性があります。この記事では、症状の仕組みや関連する疾患、そして受診の目安までをわかりやすく解説します。
目次
おしりからの粘液・臭いとは?症状の基本を知る
粘液とは腸の粘膜から分泌されるたんぱく質の一種であり、便をスムーズに移動させる役割を担っています
健康な状態でも粘液は便に付着していますが、その量は微量で、肉眼でははっきり確認できないことがほとんどです
何らかの理由で粘液の量が増え、肉眼でも確認できるほどになった状態を【粘液便】と呼びます
臭いを伴う粘液は、腸内の炎症や感染、または肛門周囲での化膿性変化が起きているサインである可能性があります
粘液が増える仕組み
お尻から出る粘液は、腸の粘膜から分泌されるたんぱく質の一種で、腸内で便をスムーズに移動させる役割があります。しかし、下痢や消化管に炎症が起こっているときなどは、腸の粘膜が傷ついて剥がれ、通常よりも多くの粘液が出るため、粘液便が排泄されることがあります。
つまり、粘液の増加は腸や肛門まわりで何らかの異変が起きているシグナルとして捉えることが大切です。
粘液の色でわかること
粘液の色も、症状を判断する手がかりになります。
【白・透明】過敏性腸症候群や腸炎などで多くみられる
【ピンク・赤】出血を伴っており、大腸炎・大腸ポリープ・大腸がんなどが疑われる
【黄・緑・茶】感染性腸炎や痔瘻など化膿性の病変を示唆することがある
赤・白・ピンク・緑などの色の粘液便が出る場合、もしくは粘液便がなかなか治まらない場合は、なるべく早めに医療機関へ相談することが勧められています。特に、血液が混じった粘液便が一度でも出てきた場合は、速やかに受診することが重要です。
おしりから粘液・臭いが出る原因疾患とは?
お尻からの粘液・膿には、大腸からの粘液と肛門からの粘液・膿があります。肛門からの粘液・膿の原因には、内外痔核・痔瘻・直腸脱・直腸粘膜脱などがあります。
症状の原因が「大腸側」なのか「肛門側」なのかによって、想定される疾患が異なります。それぞれ代表的な疾患を整理してお伝えします。
大腸・直腸側の原因
潰瘍性大腸炎
大腸の粘膜に炎症が生じ、粘血便・下痢・腹痛を繰り返す難病です。潰瘍性大腸炎は、原因不明の炎症性腸疾患の1つで、大腸の粘膜に慢性的な炎症が起こり、粘膜が欠損するびらんや潰瘍が生じる疾患です。主な症状には、腹痛、血便、下痢、発熱、貧血などがあります。
クローン病
クローン病は、炎症性腸疾患の1つで、口から肛門までの消化管全体にわたって慢性的な炎症が起こる疾患です。自覚症状がない場合でも内部で炎症が進んでいることがあるため、定期的な検査による状態の把握が必要です。
大腸がん・直腸がん
大腸がん・直腸がんでは、粘液に血液が混じることもあり、便秘や腹痛、腹部不快感を伴うことがあります。症状は徐々に悪化する傾向があります。
過敏性腸症候群
過敏性腸症候群の症状には、腹部のふくらみ(膨隆)、便に粘液が混じる状態、排便後の残便感などもあります。
肛門側の原因
痔瘻(じろう)
痔ろうは、直腸と肛門周囲の皮膚をつなぐトンネルができる痔のことです。肛門周囲に膿がたまる「肛門周囲膿瘍」が進み、慢性化すると痔ろうになります。
肛門周囲膿瘍
痔ろうに進行すると、肛門の周りから常に膿が漏れるようになり、下着が汚れたり、膿の臭いが気になったりするなどの不快症状が起こります。
特に注意が必要な疾患の詳細
潰瘍性大腸炎・クローン病(炎症性腸疾患)
炎症性腸疾患(IBD)とは一般的に「潰瘍性大腸炎」と「クローン病」を意味します。現在のところ、どちらも原因がはっきりとわかっていませんが、遺伝的素因に食事や感染、腸内細菌などの環境因子が加わり、免疫異常をきたして発症すると考えられています。長期間の治療が必要な慢性の病気であるため、厚生労働省の「指定難病」に定められています。
炎症性腸疾患の大きな違いは、潰瘍性大腸炎が主に大腸粘膜でびらんや浅い炎症を起こし、クローン病は口から肛門までの消化管全域に炎症を起こして炎症が深部に及ぶ傾向があるという部分です。炎症を鎮めて、寛解期にも適切な治療を続けることで、どちらの病気でも発症前に近い生活を送ることが可能です。
また、潰瘍性大腸炎は大腸癌発症のリスクを高める疾患でもあるため、定期的な内視鏡検査が必要です。
痔瘻(あな痔)
肛門周囲膿瘍では痛みや発熱を伴いますが、痔瘻は通常痛みはなく、しこりを触れたり、分泌物が出たり、かゆみを感じるといったことが主な症状です。しかし膿の出口がふさがり、再び膿がたまると肛門周囲膿瘍と同様の症状が現れます。慢性化すると肛門変形を来して、排便困難など肛門の機能障害を起こすこともあります。
痔ろうでは肛門周囲に開いた穴から膿などが出るため、下着が汚れ、匂いや痒みが現れることがあります。また長く放置していると痔ろうがんが発生するリスクがあります。なお、痔ろうは薬物療法や生活習慣の改善といった保存療法で治すことができませんので、治療のためには手術が必要になります。
大腸がん・直腸がん
大腸がんは、初期の状態ではあまり自覚症状がなく、進行してはじめて下血、便潜血、血便などの出血性の症状や、腹部膨満感、便秘と下痢の繰り返しなどの腹部症状、便が細くなる、体重が減るというような症状があらわれてきます。
粘液は大腸がんの進行に伴って現れるサインの一つとして知られており、「痔だろう」と自己判断して放置することは非常に危険です。
粘液便・肛門臭の色・性状からわかるヒント
症状の特徴を整理すると、どの疾患が疑われるかの判断材料になります。ただし、自己診断はせず、必ず専門医への相談を優先してください。
粘液の見た目と想定される背景
| 粘液の状態 | 想定される背景 |
| 透明・白色でゼリー状 | 過敏性腸症候群、腸炎、大腸ポリープなど |
| 赤みや血液を伴う | 潰瘍性大腸炎、大腸がん、直腸がん、痔核など |
| 黄色・緑色で臭いが強い | 痔瘻、肛門周囲膿瘍、感染性腸炎など |
| 茶色がかっていて排便に混じる | 直腸炎、クローン病など |
粘液以外に伴う症状も確認を
以下のような症状を合わせて感じている場合は、特に注意が必要です。
- 腹痛・腹部の不快感が続いている
- 原因不明の体重減少がある
- 発熱・全身倦怠感がある
- 便が細くなった、または排便のたびに残便感がある
- 下血・血便が一度でも出た
肛門から出血も伴う場合には、放置することは非常に危険で早めの検査が必要です。
実際の患者さんの事例
20歳代の女性が数ヶ月単位で継続する粘液性の排便と時々血便があることで来院されました。腹痛も伴うことから積極的な精査が必要な状況と判断しました。年齢から潰瘍性大腸炎の好発年齢であると判断し、大腸カメラを企画しました。診断は病歴からの予想通り、全結腸型の潰瘍性大腸炎であり、大腸の炎症を抑える内服薬による治療が開始され、1〜2週間で症状は改善し、3ヶ月後の大腸カメラでは大腸の粘膜は完全に寛解して正常範囲まで改善しました。
診断・検査の基本ルール
「おしりから粘液が出る」「臭いが気になる」という症状は、恥ずかしさから受診を後回しにしてしまいがちです。しかし、早期発見・早期治療が重要な疾患が隠れている場合があります。
大腸カメラ(大腸内視鏡検査)が重要な理由
大腸からの粘液・膿の評価には、大腸内視鏡検査(大腸の中を見る内視鏡・いわゆる大腸カメラ)が必要です。
大腸カメラ検査では、大腸の粘膜を直接観察できるだけでなく、その場で組織を採取して病理検査を行うことも可能です。粘液の原因となる炎症・潰瘍・ポリープ・がんなどを高精度で発見できるため、粘液便が続く場合には欠かせない検査と言えます。
こんな症状があれば早めに受診を
- 粘液便が1〜2週間以上続く場合
- 粘液に血液(赤・ピンク色)が混じっている場合
- 臭いのある分泌物が下着に付着している場合
- 肛門周囲に痛みや腫れ、しこりを感じる場合
- 発熱・体重減少・倦怠感などの全身症状を伴う場合
肛門は自分でみることができない場所のため、病気の状態の把握が難しく、恥ずかしさもあり病院に受診するタイミングが遅れがちになります。治療が早期に必要な病気もあるため、自己判断は禁物です。
検査の流れ(大腸カメラの場合)
大腸カメラ検査は、一般的に以下の流れで行われます。
- 前日に消化の良い食事をとり、指定の下剤を服用する
- 当日は腸管洗浄剤を飲んで腸内をきれいにする
- 必要に応じて鎮静剤を使用し、リラックスした状態で検査を受ける
- 検査後は結果の説明を受け、必要な場合は治療方針を相談する

日常生活での注意点と対処法
粘液便や肛門部の不快症状に悩む方は、日頃の生活習慣を見直すことも大切です。ただし、あくまで症状の予防・悪化防止が目的であり、病気の治療は必ず専門医の指導のもとで行ってください。
腸に優しい生活習慣のポイント
食物繊維・水分の摂取
腸内環境を整え、便通を正常に保つことが粘液便の予防につながります
ストレスの管理
過敏性腸症候群のように、ストレス、不安、抑うつ、恐怖などの心理的要因や自律神経の失調が主な原因とされている疾患もあるため、ストレスをため込まない生活習慣が大切です
排便習慣の維持
毎朝決まった時間にトイレへ行く習慣をつけ、長時間のいきみを避けましょう
刺激物・アルコールの制限
腸粘膜への刺激を減らすため、辛いものや過度なアルコール摂取には注意が必要です
温水便座の適切な使用
温水便座を使用すると、肛門からウォシュレットの水が直腸内に入り、下着の汚れやにおいの原因となることがあります。洗浄強度(水圧)を「高」にしている方や洗浄時間が長い方は要注意です。
市販薬に頼りすぎることへの注意
痔瘻や炎症性腸疾患など、根本的に治療が必要な疾患の場合、市販の軟膏や薬で一時的に楽になっても、病気の進行を止めることはできません。痔ろうや、その前段階の肛門周囲膿瘍は、市販薬では治すことができません。これらの症状が疑われたら、なるべく早く専門医を受診してください。
まとめ(総括)
おしりからの粘液や臭いは、決して「体質だから」「しばらくすれば治る」と放置してよい症状ではありません。その背景には、過敏性腸症候群・潰瘍性大腸炎・クローン病・大腸がん・痔瘻・肛門周囲膿瘍など、多岐にわたる疾患が潜んでいる可能性があります。
特に以下の点は今一度確認してください。
粘液便が2週間以上続く場合は専門医を受診する
血液が混じる粘液便が一度でも出たら、速やかに検査を受ける
臭いのある分泌物や肛門周囲の腫れ・発熱は感染性病変のサイン
大腸がんは早期では症状がほとんど出ないため、定期的な大腸カメラが重要
早期の大腸がんや大腸ポリープには自覚症状を起こすことがほとんどないため、確実に発見するためには定期的な内視鏡検査が不可欠です。
「なんとなく気になるが、恥ずかしくて相談できない」という方ほど、ぜひ消化器内科への受診を検討してください。症状の早期発見・早期対処が、あなたの健康を守ることにつながります。


